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美術/音楽に関わるあらゆる人たちへ

先日、武蔵野美術大学芸術文化科(*略称芸文)の学生から、取材を受けました。出来上がってきた文章をみたら、自分が現在の仕事をはじめてから今までの13年間で培ってきた考え方の根幹部分がよくまとまっているということに気づいたので、アップします。取材内容は美術に関わるものですが、音楽やその他の分野に関しても全く同じ視点でいますので、そのつもりで読んでいただければ、と思います。

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『みりょくてき且つ、たくましく在ること。そしてよのなかを見る。』

・ビジネスの世界への違和感。

−まず始めに、どのようないきさつで美大予備校でお仕事をなさることになったのか知りたいです。

「大学4年の4月末くらいに大学でアルバイトの掲示を見たのがきっかけ。それまで一般の予備校で教えてたりしたしね。美術に特別な思い入れがあったわけではなくて。音楽はやっていたから、自分を表現するってことに興味はあったけど。
自分は就職活動に現実味を感じなくて、全くしなかった。ビジネスの世界に違和感しか感じなかったから。それもあって、ここ(学院)、ビジネスと違う業界で1年やったから、じゃあやってみようかと卒業時に勤めることになってね。」

−ビジネスの世界への違和感の答えが得られると思ったからですか?

「うーん、ビジネスはお金の流れで出来ているじゃない?去年の暮れごろにサブプライム・ローン問題で急激に景気が悪くなったように、バブルは絶対あるっていうのが見えていて。実体のないお金だけが動いてしまって、地に足が着いていないというか。
全員がそうではないけど、こっち(美術業界) にいる人は正直(作品などを)お金にするのがものすごく下手な人たちだったりするわけ。だけど、お金じゃないとこで価値を見出して、何かを進めていこうとする人たちであって。だから(アルバイトを始めてから)、こういう世界もあるのかという驚きもあったけど、ビジネスも教師の世界もだめならこっちにきてみるかという形で、全然こちら側に来ることに違和感はなかった。」

・素材を最大限に生かす。

−印象に残っていたり、何か自分に特別な意味のある芸術作品というのは?

「基本的に他の人の作品に興味がなくて、自分が吸収できるかどうかという部分でしか見ないからなぁ。でも、明らかに他の人と違うことをやってる人は気になるよね。
例えば、彼にしかないリズム感で演奏するジャズピアニストのマル・ウォルドロン。時代の流れを完全に無視して具象に徹した。ベルナール・ビュフェ。迷いがないすごい強い線で、すごく好き。自発的に美術館には行かないけど、彼のだけは唯一自ら美術館に行ったね。
たぶん自分は、美術の業界を目指している人たちが感動するところでは作品をみてないんだよね。」

−その視点を知りたいです。

「まずね、正直テクニック的なものは時間をかければ手に入れる事は可能だと思っているから、技術というところでは驚かない。職人さんみたいに、とても自分はここまでいけないな、という人は好きなんだけど。テクニック自体を否定するわけではないよ。
自分にとって芸術がどういうものかというと、人間が自分自身の限界に達するための試行錯誤をしてるかどうかだと思ってるの。だから視覚的に美しい素晴らしいだけではないと思ってて、会社経営とかも芸術のひとつだと思ってるし、芸術的に子育てをする人だっていると思ってる。他の人には絶対できないようなの。そういうところに注目してる。
そういう、人間がかかわる営みってあらゆる芸術的側面があると思う。だから、ほかの人ができない人間の限界を超えるようなレベルまで行ってる人には単純に尊敬するよね。」

−たとえば誰ですかね。

「追求できてるかって言ったらどうだろう...今はコピーしやすい時代だから、感動するものはないかも。
芸術をどう位置づけているかって言うと、素材を最大限に生かすものってことだと思う。それは美術でいうと画材やモティーフだったりするんだけど、その生かし方が視点ごとにあるわけよ。俺の仕事も、生徒一人一人をどう生かすかで勝負をするわけで。経済が急速に収縮してる余裕のない今だからこそ、素材の持ってるものを生かすということをしていかないと。環境や資源的にも余裕がないしね。」

−素材を生かすとは?

「今自分がやってること、関わっていること、時間をかけてることが、どれだけの価値を生み出すのか、最大限の価値を生み出すには何をしたらいいかを考え実行しながら、大学生活もそうだし、この先の人生をおくること。そうしていかないと、多分何をしててもだめだとおもうのね。
 時間の割り振り方とかも、一言で言うと一期一会。それを人だけではなく、時間や行動に対してやれるかどうか。今授業を受けてるとして、どういうふうにしたらその時間を最高に使えるのか。そこらへんを常に賢く考えていかないと、特に今みたいな余裕のない時代は、助けてくれる余裕のある人がいないから。」

−つぶれていっちゃいまいますよねぇ...。

「そうそう、自分がね。」

・素材を生かすことは、魅力につながる。

「美術関係の知り合いで、サブプライム問題の影響で取引きを切られた人とかいるけど、そういう人って結局素材(本人)に魅力がなかったってことでしょう?でも魅力がある人は残る。美大に入ったら入ったで、その後自分を素材として考えて魅力を高めていって、余裕がなくなってる時代でも自分は必要な人間だと思わせる努力は絶対必要なんだよ。
 美術の人って少数派だから、多数決で負けるのよ。でも少数派が負けないときがあって、それはやっぱり魅力的な何かがあって、それをみんなが認めてくれるとき。それだけの魅力が、美術業界にいる一人として自分は持ってるか、ということだと思うのね。」

−魅力を。

「そうそう。美術の世界と全然関係ない人から自分を見られたときに、美術業界ってこういう人がいる世界なんだって思われるわけよ。そういうときに相手をがっかりさせたり見下させないだけの何かを持ってれば、やっぱりそれは自分にとっても美術業界にとっても一般にとっても大きくプラスでしょ。でももしそれが逆だったら、全部にマイナスなんだよ。だったらプラスのほうがいいじゃんってお話。」

−魅力的になるためにしていたことは?

「人と同じことをしないってことはずっとやってきたよね。ムサ院でも、おそらく歴代の学科講師の中で唯一、積極的に生徒に混じって制作やデッサンしてたし。それは教える相手とのギャップを乗り越えたいというのもあったけどね。
同じことをやるんだったら人の何倍もやる。卒論は400字詰め100枚が普通だけど、俺は700枚が目標で。実際は300枚までだったけど、これだけ書いたら文句はつけられないでしょ。3人分の働きをしたわけだから。
要するに、他の人と同じ事をするんだったらそれくらいやる。他の人がしないようなことをしないと、自分がなんで生きているのか分からない。」

−そうですよね、人と同じってことは、自分でなくてもできるってことですからね。

「そうそうそうそう。ここでテキストのデザインとかも全部自分でやったこともそうだし。あと、物事を長くやって慣れてできた余力を、必ずどこかにふりむけるってことをやってて。そのときにも他の人がやらないことをやろうという形で。」

−他の人と同じことをしないというのと、するのなら何倍もするというのに、重きをおいていたのですね。

「そうだね。自分の生活も含め生き方のあらゆる部分に自分という素材がいるわけだから、それを最大限に生かして、日本だけでも何億っていう人がいる社会においたときに、立っていられる状態にしておかなければいけないんだよ。」

・たくましさ。

−社会に出たら、立っていられないことがあるってことですよね。

「まあそうだよね。本当は、アートをやる人っていうのは自分に強くなきゃいけない。
とにかく、今の大学生の人にはたくましくなって欲しい。今は民主主義で多数決の時代だけど、社会で一番多いのは老人。ということは、若い人のことを老人が決めているってことなんだよ。おかしいけどね。学生の、子どもでも社会人でもないという境目だからこそ許されることもあるよ。バイトだからミスも許してもらえたり。環境を利用してたくましくなって。豊かなのも若い人じゃないから。」

--たくましさとは具体的にどんな?

「単純にね、自立した生活ができるかどうかだと思うよ。自分で金を稼ぐかどうかでもあるんだけど、誰かに援助してもらうんじゃなくて、自分で回していく強さ。」

−自分で管理して、やりたいことやって。

「そうそうだって本来芸術の世界ってそういうものでしょ。全部自分の考えてることを外に出したいからこの世界にいるわけじゃん。それって他人にやってもらうんじゃなくて自分でやるしかない。それを作品に対してやってる人もいるけど、生活についてもやるべきなんだよ、本当は。」

・芸文生に向けて一言。

−最後に一言、芸文生に向けて一言お願いします。

「歯に衣を着せない言い方をすると、芸文てというのは美大の中でも低く見られがちだと思うんだよ、間違いなく。」

−作ってないですからね...。

「うん、でも今までは豊かな時代だったからその余力で作品は売れていたけど、これからは違い、多くのアーティストと呼ばれる人達があぶれる。そういうときに一般社会とのパイプをつくり、作品を価値のあるものとして認識させることができる立場にあるのが芸文で教わっている人達。そして今の1年生が社会人になって何年もした後には(芸文の評価が低い今の)状況が変わってくる可能性はあるし、その状況を異なる状態にするのが芸文生だよっていう。
ものづくりをしていなくても、いろんな価値を作り出していく。」

−変えていけ、と(笑)

「そういうことだよ。
この不安定の時代をいい機会だとも思ってる。ものづくりで価値のないものを作ってる人達が淘汰される。その中で芸文の人が、価値のあるものを作ってる人達をきちんと拾い上げているというのが伝われば、評価も変わってくると思う。
 ただ学芸員というだけではなくて、もっと法律とか経営の側から攻められる人が養成されて欲しいと自分は思うよ。」

−パイプ役で。

「パイプ役で。法律をやってる人で、美術が好きでも、その価値を見抜いて分かった上で好きな人というのは少ないと思う。だから作品をきちんと見て、法律面でもサポートしてくれる人が美術界にいるだけで価値があるんだよ。例えば著作権の問題で力になれたりね。
一般大学での美術というのはやっぱり一般論だから、知識とかでものを見てしまう。その中で、きちんと感性でみて、つなげる人がいれば、もっともっと美術業界は役に立つものとしてアピールできるから。逆にそれがなければ、この先はきついだろうと思ってる。

だからそのために、世の中をちゃんと見て、感じて欲しい。

大きな流れを無視しない。政治とか経済も大切でさ、自分がやってることに対して、影響を与えるものだと思ってみる。

それからさっきも言ったけど、高齢者が社会の多数を占めているという事実も注意して欲しい。インターネットの情報技術を無視はできないけど、その世界を理解していない人が年配の方には多い。だから、学生の人たちが自己責任で培っていかなければいけない。自分から積極的に関わらなければいけないしね。今は過渡期だから、2、3年たてば今の情報はすぐに時代遅れになる。常に自分できちんと情報を取り入れて、上手く利用する。年齢が上の人達には分からない感覚を自分で補うことをして欲しいよね。」

−なるほど。
 本日はお忙しいところを、ありがとうございました。

 (2009年5月26日取材)