『華(桜1)』夜のバスのステップを降り立ったとき、止まない雨の中でヘッドライトに照らされて輝いたのは、黒く艶めいたアスファルトの上に咲き誇る、濡れた桜の花園だった。 朝からずっと雨に洗い流されていたアスファルトは、漆黒に濡れたまま街灯の光を受けて煌めき、まるでそれは、深淵の宇宙に浮かぶ数々の銀河系を映し出しているかのように妖しく、無数の雨粒を吸い取るようにただ何も言わず、水滴に打たれるままに、かつては生命の一部だった花弁をただ冷たく受け入れている。 今日の空は、生暖かく重たい雲に遮られたまま、広大な空は蓋をされたまま、ずうっと向こうの上の方から無数の雨滴をばらまき続けていた。だからたとえば見上げたとしても、向こうには何も見えはしなかったのだ。見上てみても空にはただ、遥か向こうの一点から極端なパアスを成して、こちらに向かってくる雨が降るだけだったのだ。いつ途切れるとも知れず、私たちはずうっと向こうには行くことすらできないというのに、雨は始終無言で、いつまで経っても空の向こうから、ただずっとやってきていたのである。 そして一日中、ずっと一日中、何も言わずに洗い流されるままにされていた濡れたアスファルトが宇宙なら、きっと、地面のずっと向こうに、アスファルトという艶めいた画面の向こうに、雨は吸い込まれていったに違いない。昨日まで咲き誇っていたさくらの花弁はもう、しなやかな枝から落ちるままになって、ぽとり、ぽとりと、次々と、時には五枚の花びらを別々に砕かれながら、それでも薄い桜色を失わず、真っ赤な蕊をそのままに、こうやって光り輝く宇宙に向かって、ずっと向こうからやってくる雨のひとつぶひとつぶと一緒になって、そうやって降り注いできたに違いない。そして私が漆黒の宇宙に降り立った今、偶然にも照らされた強い光に儚げにその姿を浮かび上がらせ、昨日までの華の終わりを、時節の終わりを告げ、今までも年ごとにずっと繰り返されてきたはずの、美しく危ういその光景を、私に向かって訴えかけてきたようなのだ。 傘を差したまま立ち尽くし、エンジンの鼓動が真っすぐな道の向こうに遠く微かに消えていった今、やっと私は、家に帰ることをふと思い出したようだ。 2005年4月8日
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