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『エレーン』

エレーンが心に響く。

その性悪女はたぶん、何人もの男を食い物にしてきたはずで、その存在がこの世に認められなくなってしまった今、罵倒する勇気もない男たちは、陰で彼女の悪口を、言ったつもりになっている。エレーンは何人もの男を身体の奥底で感じ、しかしそのうちの誰一人として、彼女の心を動かしはしなかったに違いない。

男なんて、みんな同じ…。

男なんて、みんな同じ。たぶんそれは、同じような男だけが彼女に近づいてきたからなのだが、彼女にとってはそれが生きる世界の全てで、それでも、少しでも違った男を探そうとして男達を渡り歩き、揺れ動く体温の中で目を閉じてみても、結局はみんな同じ男で、求めてくるものも同じ、彼女を縛るのも同じ、彼女を捨てるのも同じ、それでも、彼女が気付かないのは、彼女自身もそういった男達と同じで、ただ異なるのは、生まれ持ってしまってどうしようもない「性」であり、ただ彼女は、男達と「性」が異なるからというただそれだけの理由で、彼らと交わることができる、ただ、それだけ。

ある時は五感を解放し、ある時は感覚を閉じ込め、ただ空虚な瞳で天井を見つめ、壁を見つめ、そのくせ内奥は本能と欲望の渦に翻弄され、時には泣きながら、涙を流しながら、溢れ出る奔流に身を任せ、悶え、蠢き、嗚咽を漏らしながら、それでも、決して彼女を満たすものはなく、ただ、つながっている時だけが、考えることをしなくて済むというだけで、彼女は毎夜、一晩中、ただ温もりを求め、震える息遣いを求め、執拗に、しかし虚ろな瞳で、ともに居ることを男に求め、そうして彼女が得たものは、性悪女という陰口と、引き出しの奥に隠した、その冷たさを握りしめれば、まだ温かかった頃の、無垢でいられたあの頃の、時には強すぎる太陽の光と、波と、土の匂いと、潜在的な彼女の「女」を隠し続けてきた恥じらいが、ほんの少しだけ彼女の中に蘇り、しかし、あまりにも「女」でありすぎる今の彼女にとってそれは、抱き続けるにはあまりにも苦しく忌むべき生まれ故郷の硬貨で、ガラス窓から漏れる明かりと、家族という温かさすら遠くから羨ましそうに、たとえ触れたくても触れられず、暗く小さな部屋に帰って、小さな過ちによって生み落としてしまった少年を見つけ、どの男の息子とすらわからないその少年の瞳の中に、あれだけたくさん彼女の上を通り過ぎていったのに、一向に彼女を満たすことのない「男」という存在の萌芽を見出し、彼女はその少年を思わず打ち、打擲し、肺腑を破るような泣き声を止めるまで殴り続け、いつしか少年は泣くことすらしなくなり、少年の目は男達よりも、よりエレーンに近づき、虚ろになり、決して変えることのできない自分の運命をただ無感動に受け入れ、生きることそれ自体がただの日課となり、ただ、今日の朝に死んでいなかったから、また今日という日を仕方無しに生きるようになる。

「生きていてもいいですか」と問いかけたところで、そんな言葉に対する答えは、もう誰だって知っている。ただそれは死ぬことを知らないから、だからただ生きているだけで、そうやってみんなは、自分がみんなと同じであるふりをして、あまりにも人間でありすぎる彼女に、性悪女というラベルを貼り、彼女はただそこから抜け出る術を知らないから、心奥を偽って普通のふりをして生きてゆくやり方を受け入れられないから、ただ、あるがままに生きていただけなのに、あまりにも「普通」でありすぎる世の中では、彼女が受け入れられることはなく、親によって名付けられたその愛らしい名前でさえも、この国ではそれは異端の印で、そうやって普通の渦の中に埋もれて、生きてゆくふりをしているこの国では、彼女は今夜の冷たい雨の中で、静かに瞳を閉じる他になく、そしてただ、彼女がもう起き上がってこないのは、たぶんもう目を覚ますことに疲れてしまっただけで、もう二度と誰にも聞けなかった問いを発することもなく、ひとつの生命が薄れてゆくのをただ無感動に見つめるだけの少年を残し、汚らしい寝床の中で、いつものようにじっと、現実との接点を静かに断ち切るままに、ただエレーンは、肉体だけの存在と成り果てた。

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